勇者になりたかった双子

「それにしても、リナとルナとレナだなんて面白い組み合わせね。まるで、私たちの子の欠けたピースを埋めてくれたみたい。」

 食後の紅茶を淹れながら、リナとレナの母親はそう言った。

「そうですね、私の旅の動機も、リナさんとレナさんの真ん中に入れるかなーなんて、ほんと軽いノリでしたもの。

 ただ……お二人と出会ったとき、初対面という感じが全くしなかったんですよね。

 それで、半ば強引に同行させていただいてしまって……ご迷惑かとも思ったんですが。」

 そこに父親が突然口を挟む。

「ルナさん……間違っていたら失礼だが……いや、間違っていなくても失礼かもしれないが……
 もしかして、亡くなったご両親というのは……」

「――! まさか、父さん!」

「……ルイス、と、ナーシャ、かい……?」

 ルナは目を丸くし、紅茶のカップを口から離せずに居る。

 ゆっくりと紅茶を飲み干したルナは、重い口を開いて語り始める。

「……はい……私の両親、ルイス父さんと、ナーシャ母さんは、前回の魔王討伐のため旅立ち、
 その途中で私を産み……私を守るために亡くなった、と聞いています……。
 ですから私も魔王討伐に加わりたかった、復讐をしたかった……。
 ……まさか私の力で討伐できるなんて全く思ってもみなかったことですけど……。」

「ルナちゃん……ごめんなさいね、あのとき貴女たちを護り切れなかったのは私たちの力不足……。
 魔王を倒したあと、貴女を引き取ろうとも思ったの。でも……私が双子を身ごもっていることがわかって、
 とても3人は育てることができない、そう思って施設に……。」

「ルナさん、貴女、魔法剣士、かい?」

「……はい。剣の腕の方が足りなくて、若干絶望しながら旅をしていました。」

「ご両親の血を継がれていたのね。ルイスはそれはそれは頼りになる戦士、ナーシャは魔力では誰も
 勝てないほどの魔導師だったのよ。私たち……父さんは勇者、私は賢者というパーティに加わってくださったの。」

「……。不思議な、縁、ですね……。」

 ルナは黙り込んでしまった。
 静寂を切り開く明るい言葉を聞くまでは。

「ルナちゃん。貴女、うちの養子にならない?
 今なら3人養うことだってそう難しくない、それに貴女が居なければ……きっとまだ、この世界は闇に包まれていたわ。
 私たちに、私たち家族に、精一杯の恩返し、させていただけないかしら。」

 ルナは少し悩んで、顔を上げず頬を濡らしながら、答えた。

「私なんかでよければ、喜んで……。」

 この一家が居れば、また魔王が現れるようなことがあっても、世界は安泰だろう――。

 ルナも同行してリナとレナの故郷に帰ることになった。途中、魔物は一匹も現れず、魔物かと思って剣を抜いたら野良犬だった程度に平和な世界になっていた。

「あたしたちが――魔王を――封印した、んですかね――?」

「そうだとしか考えられないわよね――」

 ずっと不思議な気持ちを抱えたまま故郷へ帰り、リナとレナの家にルナも泊まらせた。

 翌朝、母親が「そういえば、役所から何か伝えたいことがあるから来てほしいって連絡がひと月近く前にあったわよ」。と姉妹に告げた。
 いまさら役所が何の用だろう、職業を偽って旅をしたことによる罰則でもあるのだろうか、不安になりながら、ルナにも同行を頼んで役所へ行くことになった。

 役所で窓口へ行き用件を訊くと、意外な答えが返ってきた。

「実は――あなた方は本来勇者として生まれるべきだったところだったんです――
 双子になってしまったために職業の割り当てがあんなことになってしまったようだったんです。
 魔王が消えてから調査してわかったことなんですが。」

 ――勇者になりたい、そう願っていた姉妹は、始めから勇者だったのであった。ただひとつ、双子として産まれたということだけを除いては――。

 道中の魔物はどれも大したことがない、と思えるほどに3人は成長していた。

 ……そして、魔王との対峙。

「ほう……ここまで辿り着ける人間が、まだ存在していた、とはね。驚きだよ。褒めてあげよう。」

 威圧感たっぷりの魔王。しかし3人は全く物怖じせず、練っていた作戦通りに動く。

 まずはルナの防御呪文で魔王の攻撃をある程度無効化し、リナ・レナは打撃と魔法攻撃。

 ……しかし、ある程度無効化した攻撃とはいえ、相手は魔王である。かなりのダメージを受けてしまった。ルナは必死で回復に回る。

 攻撃も、さほど効いていないように見えた。さほど効いていないように見える攻撃を幾度となく繰り返して、ダメージを受けるたびに回復。どちらが分が悪いか、一目瞭然……。

 ルナの魔力が尽き始めて来た頃、さすがに3人は死を覚悟した。

 そのときだった――リナとレナは何かを無意識に同時に詠唱し始めていた。魔法全般をそつなくこなせるルナですら聞いたことのない呪文だった。

「「闇を司る者よ、夢を司る者よ、この世界に悠久の平和が訪れんことを」」

 呪文の詠唱だとも思えないような、ただのひとりごとのような言葉を、姉妹が全く同時に詠唱し――魔王は消滅した。
 と同時に……リナとレナが身に着けていた指輪が音もなく砕け散った。これが、指輪に秘められていた魔力、だったのだろうか。

 2人は憔悴しきってその場に倒れこんだ。ルナの回復呪文すらも全く効果はなかった。

 しかし、確かに魔王は消えたし、洞窟の中にも、洞窟から外に出ても魔物は一匹たりともいなかった。

 ルナは全く状況がわからないまま、近くの村へ助けを呼びに行き、リナとレナを運んでもらい宿屋で休ませてもらうことになった。

 事情を説明すると、宿屋の経営者は、リナとレナが目覚めるまでずっとタダでここに泊まってくれて構わないと言ってくれた。

 リナとレナが目覚めるまでには二週間もの日を要した。その間、魔王が棲んでいた洞窟の近くだというのに全く何もなく、平和すぎるほど平和な日々をルナは過ごしていた。

 やっと目覚めたリナとレナに、ルナが状況を説明した。リナとレナは

「あたしたちに何かが語りかけて来て、その呪文を詠唱しろと言ってきたんです。
 無我夢中で詠唱していました。詠唱を始めてからの記憶は全くありません。」

と答えた。

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